「G線上のアリア」を分析 ”史上最高のメロディ”

クラシックで、最も人気が高いと言っても良い、J・S・バッハの「G線上のアリア」の楽曲分析をしたいと思います。

この楽曲は、バッハの生前は評価はあまり高くなく、死後100年ほどたってから人気が出た珍しいタイプの楽曲です。

個人的に、クラシックで最も好きな楽曲です。

この曲だけは、とてもマネできません。

楽曲詳細

楽曲名 管弦楽組曲 第3番 ニ長調
作曲者 J・S・バッハ
作品番号 BWV1068
制作年 1710~20年頃
演奏時間 20~25分

ソロヴァイオリン楽曲の「G線上のアリア」ですが、実はバッハがアレンジをしたわけではありません。

「管弦楽組曲 第3番」としてオーケストラ用にバッハ作曲した楽曲を、ヴィルヘルミというヴァイオリニストが1871年にソロヴァイオリン用にアレンジしたものです。

そして「G線上のアリア」というタイトルも、この時つけられました。

バッハの死後100年以上経ってからできたアレンジなので、バッハが意図して作った楽曲とは少し違っています。しかもキーも、DメジャーからCメジャーに変更されています。

なので、「管弦楽組曲 第3番」と「G線上のアリア」は基本的に別物だと覚えて置いてくださいね。

この「G線上のアリア」タイトルはとても秀逸で、元々の「管弦楽組曲 第3番」も「G線上のアリア」と呼ぶ人がいるほど定着してしまいました。

抜群にカッコいいタイトルですよね。

楽曲分析

G線上のアリアには、名曲と言われるだけあったたくさんの作曲テクニックが満載です。

この楽曲の一番の奥底にある本当のすごさは、他サイトでは見ることはできませんでしたので、このサイトで切り込んで行きたいと思います。

まず、、、この楽曲はテンポが遅い!!♪=25くらいでしょうか。

ゆったり優雅なテンポ感で、熱いハートのある演奏をすればするほどこの楽曲は生き物のようにその魅力が爆発します。演者の個性を発揮しやすい楽曲であるとも言えますね。

それでは、まず1~2小節目から見ていきましょう。

1~2小節目

1~2小節目は、見事な掛留音が独特の「緊張感と緩和」「緩と急」のバランスを醸し出しています。

緊張感と緩和

まず特筆べき点はベースラインの秀逸さです。

メロディの「E音(ミ)」が1小節目の全て伸ばした状態で、ベース音はC-B-A-Gと順々に下がり、2小節目の頭で「F音(ファ)」になります。

ですが、まだ1小節目から延びているメロディの「E音(ミ)」はまだ2小節目に入っても鳴っています。

ということは、長くロングトーンで緊張感を保っていた「E音(ミ)」は、「F音(ファ)」のベースと半音のぶつかりになるわけなんです。

長7度ですね。

その後すぐにメロディが、「A音、F音(ラ、ファ)」というコードトーンの音に解決して緊張が解かれ、安心の心地よさで気持ちが高揚します。

緩と急

そしてその後、「D7」のコードの時、D音を鳴らしたメロディはパワーがさらに増えます。

なぜなら、「D7」は次の「G7」へ流れるダブルドミナントでしかもベースは半音でF#からG音へ向かう強い進行です。(なので「D7」ではなく「D7on F#」と言っても良いですね。)

緊張から放たれたメロディはこの「ダブルドミナントの効果の強い進行力」と、「全音符の後の16分音譜への変化」の力を得て疾走します。

「緊張」から「緩和」されると同時に、「緩」から「急」にもなるのですね。

そして、その次に出てくるGコードの時に、コードトーンの「B音(シ)」強い解決感とともに安息につながります。

冒頭から続いた強い音楽力の流れが、2小節目の3~4拍目で一旦落ち着きます。

3~4小節目

実はこの楽曲の中で、最もレベルの高い演出が組み込まれているのが3小節目の3~4拍目です。続いてみていきましょう!

マイナーキーへの切なすぎる転調

ほっと一息したのもつかの間、3小節目からまたメロディは新しい旅に出ます。

3小節目冒頭の「Em(b5)」はDmキーのサブドミナント(Ⅱm(b5))、「A7」はDmキーのドミナント(Ⅴ7)、そして4小節目で「Dm」に解決するので、いわゆるドミナントモーションですね。

なので3~4小節目にかけてDmに転調していきます。

Cメジャーから見たDマイナーは、下属調(Fメジャー)の平行調なので比較的近い転調ですね。

ハーモニックマイナースケールの威力

この比較的近い転調でも、ここの浮遊感がこの楽曲をすべて支配していると言っても良いでしょう。

3小節3拍目に、「Bb音(シb)」と「C#音(ド#)」を絡めたメロディができています。これは、「Dハーモニックマイナー」ですね。

Dハーモニックマイナーがこんなに素敵なメロディを演出できるなんて目からウロコです。

Dハーモニックマイナーは、実は第6音目と7音目の間が1音半開いているかなり特殊なスケールなんです。

その特性を見事に生かしていますね!

特に「Bb」音のところでは、体が解けてしまいそうなほどの音楽力を感じます。3小節目のメロディは、世界中のどんな優秀な作曲家でも作れないメロディではないかと思えるほどすばらしいです!

そして、3小節目4拍目ウラの「G」音のメロディは、A7のセブンスにあたり、これが涙がでそうなほどの切ない響きを与えてくれます。

この雰囲気は、完全に転調が完了するのは4小節目のDmからなのですが、その前の3小節目でDハーモニックマイナーが使われているところがすごすぎます。

転調が行われる前に、次に待ち構えているキーのスケールが使われいるので、一瞬キーが曖昧になるところがこの部分の素晴らしいところですね。

さらに、この3小節目3拍目と4拍目のたった2拍の間に、Dハーモニックマイナーの7音すべての音が使われているという、、、ガッツリすぎるほどDハーモニックマイナーなんです笑

まさにバッハの天才ぶりを証明しているかのようなフレーズだと思います。

5~6小節目

マイナーキーから一転、再びメジャーキーへ転調

そしてまた、5小節目から表情が変わりますね!

5小節1拍目のメロディのE音が、ビックリするほど伸びやかに、そして華やかに感じます。

コードがCなので、長3度の温かみがある響きが、マイナーキーの切なさかと比較されてとても心地よいです。

コードがCなので、キーがDマイナーからCメジャーに戻った、、、と思わせておいて、5小節2拍目のF#音がでてくるので、、、実はGメジャーに転調しているのですね

Gメジャーキーのサブドミナントに展開しています。(このF#音で、5~6小節目はよくCリディアンスケールが使われていると勘違いする人も多いですが、ここはGメジャースケールです。)

そして、、、E音から、F#音G音とつながるところの盛り上がりは素晴らしいですね。

一度、4小節目からの弾いて、5小節目の冒頭のメロディを、E音からF#音G音ではなく、E音からF音G音と弾いて両方を比較してみてください。

いかにこのGメジャーへの転調が効果的かということがわかると思います。

落ち着きを予感させるメロディ

そして次の「Am~D7~G」とドミナントモーションでGコードへ解決していくと同時に、5小節3拍目から6小節3拍目に向けてメロディがG音に向かって落ち着いていきます。

このメロディは、まるで飛行機が着陸地を見つけたかのようにG音に向かってゆくのを感じると思います。

これは、1~5小節目まで1小節ごとに表情を変えてきた楽曲が、このドミナントモーションによって「G」コードへの動きが予想できるからですね。

この着地感が、1~5小節めの長旅に一旦の終止符を見せてくれます。

この落ち着き感で、緊張と緩和、切なさと優しさであふれた1~5小節目の物語に一旦終止符が打たれます。また次の新しい旅を期待させる見事な節目となっているのですね。

これがいわゆるトニックの落ち着きです。

そして次に、楽曲頭に戻るのでまたCメジャーへと転調します。

とうことは、この最後のGコードで終わっているので、基本はトニックですが、結果的にCメジャーキーのドミナントへの転用にも使われています。

まとめ

1~2小節目は緊張と緩和の美しさを、3~4小節目は浮遊感で切ない世界観を、5~6小節目で温かみを感じさせてくれます。

そしてこの緊張感を2回繰り返して次の展開へとつながってゆきます。

こんなことが、300年前もの昔に行なわれていたのですね!

この楽曲を、自分の音楽作りに活かすには?

この楽曲の音楽力は、とてもマネできるものではありませんが、とても勉強になることがあります。

「緊張」と「緩和」、「切なさ」と「優しさ」、「緩」と「急」といった対比が入れ替わり詰め込まれているのですが、これらは全て、「トニック(緩和、安定)」「サブドミナント(展開)」「ドミナント(緊張)」の組み合わせや、そのコードトーンの並び方によってできています。

2小節目2拍目のダブルドミナントを使って、ロングトーンの「緩」から「急」へ展開を作ったり、意図的にコードトーンをはずし「緊張」を生み出したりしています。

そういったことを、1小説の中でも何度も行い音楽に機能的に意味を持たせることにより、お音楽に艶やかさや感動を表現しています。

「G線上のアリア」は、そういった基本的なことが音楽を作る上では最も大事だと教えてくれる教科書のような存在だと思っています。

機能和声を勉強できる、模範的な楽曲です!

この曲を聴くだけで、本当に僕は涙が止まりません。

分析しながら、何度涙をぬぐったことでしょうか、、、

こんなに素敵な極と出会えて、本当に幸せです。

まとめ

「美」を求めたルネサンス音楽の時代から、「美」だけでは物足りない!人間の感情をもっと音楽で表現したいという強い思いから幕を開けた「バロック音楽」の時代。

そんな時代の中、この「管弦楽組曲 第3番(G線上のアリア)」は生まれました。

こんなにも美しい不協和音や緊張と緩和、そして涙がこみあげてくるようなメロディ、、、

この楽曲が当時のヨーロッパ世界にはどれほど魅力的に響いたことでしょうか、、、

と言いたいところですが、バッハは生前は作曲家としての評価は今ほど高いものではありませんでした。この楽曲も、当時にしては斬新すぎて、バロックの時代を輝かせるにはまぶしすぎたのかもしれません。

時代を先取り過ぎていたのですね。

でもその分、300年以上現代においても揺ぎない名曲の地位を保っています。

おそらくあと何百年の未来でも、色褪せない歴史的な名曲として鮮やかにメロディを咲かせ続けてくれることでしょう。

コメント

  1. 平林 隆 より:

    こんにちは。
    音楽理論に習熟された解説に感銘を受けます。
    私は ほら しか吹けないので、貴殿の理論の理解はできませんが、是非機会がありますれば、お話が聞けますと幸甚です。演奏は出来ませんが、楽曲の素晴らしさや秀逸さは感性で判断できますことが幸いです。美しいかどうかが直観で判ることが有り難い。
    万葉時計を創始した者ですが、バッハのBWV.1052番のヴァイオリン協奏曲に衝撃を受け欧州志向から日本志向に変える機縁になりました。ですから恩人です。文化の頂点が音楽と思っていますので。
    谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」の書籍にも共通の要素が書かれておりまして、カテゴリーを問わず陰と陽の表現の大切さを伝授して下さいます。
    G線上のアリア の素敵なところは無機質でないこと。柔肌の温もりさえも伝わって参ります。現代の無機質な工業製品には吐き気さえ感じる昨今ですが(ロレックスのような)ドイツとスイスは隣国なのにどうして気が付かれないのでしょうか。これは我が国にも当てはまりますね。日本車はしょぼい。良いエンジンなのにすごく残念。
    カーデザイナーがこの名曲の魔力を知らないか理解できないのか。東洋人ではやはり血が異なり貧しい過去です。音楽が神を讃え人間を慰める効果があるこなど理解できなかったでしょうから。 平林隆 拝 サイトは工事中です。

  2. Kira より:

    g線上のアリアを弾く時、感情をどう表現 
    気持ちを入れれば良いと思いますか?

    補足
    バッハは最終的に何をこの曲に込めたのでしょうか

  3. √6意味知ってると舌安泰 より:

    ≪…G線上のアリア…≫に、数の言葉ヒフミヨ(1234)の≪…叙情…≫を、自然数(≪…アリア…≫)として実数直線(G線)上に落とし込めば、【数の世界】と【音楽の世界】との時空間が固く結ばれているのを音楽(数え歌)に託したい・・・