目次
時代背景
ロマン派音楽とは、1800年初頭から1900年頃まで続いた1つの音楽の潮流です。
19世紀をまるまる飲み込んで発展した、西洋音楽史の中でも最もたくさんのドラマティックな音楽が生まれた時代です。
現在でも、とてもたくさんの音楽ファンに愛されている時代と言っても過言ではありません。
個性が光る時代の幕開け
ロマン主義の誕生
古典主義が全盛の17世紀のヨーロッパで、重んじられた「合理的」で「理性的」な考え(啓蒙主義)は、芸術・文学・哲学の分野において調和的で均整の取れた構成美を生み出し、大きな成果を上げてきました。
音楽の分野でも、「ソナタ形式」や「交響曲」などのとても調和の取れた形式が多数生まれました。
しかし、その理性や均等を重視しすぎる古典主義では、規律や規則も多く、文化の発展においては次第に窮屈になってゆきます。
そのため、1700年後半~1800年前半頃に、古典主義に対抗する新しい思想や運動が起こりました。
これが「ロマン主義」です。
ロマン主義では、古典主義の「合理的」「理性的」な人情に欠ける考えは排除され、「理想」「感性」「夢」といった本来人間が備えている感情を重視し、それを惜しげもなく表現することがよしとされました。
「個人の感情」を解禁することが、新しい世の中を作っていくという改革的発想ですね。
このロマン主義の発想が音楽にも多大な影響を与え、1827年ベートーヴェンの死が境目となり、古典派音楽からロマン派音楽へと移行してゆきます。
ロマン派音楽の時代では、恋愛や情緒、喜びや不安、苦悩や憂鬱など、人間の感情や非日常をテーマとした名作が多く作られるようになりました。
「宗教や神」、または「貴族の娯楽ための音楽」が中心だった古典派時代以前から比べると、ベクトルはほぼ真逆の方向へ向かっていますね。
音楽の教科書に載っている作曲家の大半が19世紀のロマン派の人であることからもわかるように、この時代はたくさんの著名な作曲家が誕生した百花繚乱の時代です。
西洋音楽史的において、最も華やかな時代が幕を開けたのです。
作曲家が、「職人」から「芸術家」へと進化する
中世~ルネサンス~バロック~古典派時代までの音楽家は、音楽活動をするには宮廷や教会のお抱えになるしかありませんでした。
当時、音楽家や作曲家にお金を払ってくれるのは宮廷や教会しかなかったのですね。
なので、音楽で生きてゆくには、そこからの発注の通りに音楽の仕事をこなす「音楽職人」になるしかなかったのです。
現代と違って、一般市民が音楽に関わることがほとんどできない時代だったのですね。
しかし、18世紀ごろになると世の中は大きく動き始めます。
フランス革命によって王族が倒され市民が国家の主体になり、産業革命によって市民の中でも力を持った者が出現します。
そうなると、宮廷や教会だけのものであった音楽は、力を持った一部の市民も楽器を弾いたりコンサートに行ったりして音楽を楽しめるものとなってきます。
市民が音楽を楽しめるとなると、音楽に関われる人口が大幅に広がり、音楽というものの需要が大きく伸びます。
お金持ちの市民はピアノやヴァイオリンを購入したりして、楽器を楽むようになります。
そうなると楽譜も売れ、音楽を教える講師も必要となり、人気作曲家のコンサートにも人が集まりやすくなります。これにより、お金をもらえる音楽の仕事の量が大幅に増えることとなりました。
つまるところ、作曲家は、自分の曲がヒットすればたくさんお金が入ってくる時代になったのです。
そうすると、宮廷や教会の「音楽職人」としてしか生きて行けなかった音楽家や作曲家は、自分の作りたい音楽を追求する「芸術家」として生きる道が開けていったのです。
こうなると、作曲家はどんどん個性的な作品作りに没頭していきますよね。
こういった背景も、個性的な楽曲が多数生まれる一助となりました。
ロマン派音楽の、特徴と進化
一般的に、「古典主義」の対義語のように「ロマン主義」が使われていますが、音楽の分野においては、これがすべて当てはまっているとは言えません。
確かに音楽も、古典派音楽の「合理性」「形式」「秩序」を破壊しようとしましたが、古典派時代に確立した機能和声やオーケストラ等の楽式は古典派のものを真摯に受け継いでいます。
古典派に生まれたよい要素を受け継いだ上で、音楽表現の対象が「人間の感情」や「非日常」なものへと変化してゆきました。
また、古典派時代に生まれたオペラも、ロマン派時代に全盛期を向かえ、大規模なオーケストラの楽曲が作成されました。
それでは、このロマン派時代に発展した音楽的特徴をみていきましょう。
標題音楽の隆盛
特にロマン派後半では、音楽以外のものと音楽を結び付けようとする標題音楽が非常にさかんになります。
しかし、標題音楽がすぐに受け入れられたわけではありません。
事の発端となったベルリオーズの「幻想交響曲」になるのですが、第1楽章で「夢、情熱」などという標題をつけその標題に沿って作曲をした。これは当時の音楽シーンに多大な物議をかもし、テーマ性の強い音楽を否定する人も多数いました。
この反対に位置するのが、音楽は音楽のみで構成され、音楽外とのかかわりを持たない「絶対音楽」です。
標題性を突き詰めたワーグナーと、絶対音楽の頂点とされるブラームス(新古典派)の二つに大きく分かれ議論が続いていきました。
調性の広がり
まず調とは、、、サークルオブフィフスのところで話したように、隣接する調へ動いていくと1音づつハ長調からへ長調はスケールで言うと1音しか違いが無くかなり近い調といえます。
転調は、より遠くの調にも飛ぶようになります。
変ト長調を最も遠い調として、どの調へも飛ぶことが可能となり、より音楽の幅が広がっていくことになります。
古典派の後期には比較遠い調への転調も見られましたが、ロマン派ではさらに多彩に転調が行われ、調の垣根が限りなく低くなりました。
ロマン派の作曲たちは、バロックや古典派の時代によって確立された機能和声を、半音階を使って自分たちのものにしようとします。
特にワーグナーやリストは調性感を極限まで拡張しようと試み、また、シェーンベルクが「十二音技法」を考案し、無調音楽も広がりをみせました。
これにより、より多彩で壮大華麗な音楽表現が確立してゆきます。
バロック時代では近い調にしか転調しませんでしたが、ロマン派になって登場したこの調を極限まで広げる手法は、当時ドラマティックに聞こえたのでしょうね。
郷土愛、民族愛を謳った楽曲が増大
ロマン派は約100年の間にあまりに多くの音楽的な手法が試みられ、音楽を制作する主体が大きく変わったりで、たくさんの派閥や時代に分けられます。
19世紀中ごろから、ナポレオンの活躍と減衰、革命などは人々の自我を刺激し、国民的感情や民族主義に目覚め、特にロシアやボヘミア、北欧などで自国の民謡や民族音楽の様式や形式を重視した作曲家が現れ、ロマン派の中でも国民楽派と呼ばれました。
また、ロマン派の後半の中でも最後の30年程の間は近代音楽と呼ばれます。
ドビュッシーが確立した印象主義音楽や、ワーグナーの流れを汲みつつ新しい音楽表現を求めた新ロマン主義などはこの時代の流れに生まれました。
この後、音楽区分は現代音楽へとつながっていきます。
故人の楽曲がコンサートで演奏される
メンデルスゾーンは、バッハの楽曲を研究し、そのすばらしさに気づきました。
ですが1800年代の当時は、80年も前の故人の音楽なんて、音楽を勉強する人以外は見向きもしませんでした。
作曲家が亡くなるとその楽曲も亡くなるという、現代のポップス的なイメージかも知れませんね。
ですが1829年、メンデルスゾーンは、きっと100年も前の難解な楽曲なんてだれも興味を示さないだろうと大いに非難を浴びながらも、バッハの「マタイ受難曲」をコンサートの開催を強行しました。
その結果、前評判を見事に覆しコンサートは大成功に終わりました。
この功績により、コンサートは再演依頼が殺到し、バッハの音楽は見事に復活を遂げました。
そして、バッハ以外にもたくさんの名作があったことが世の中が知ることとなり、たくさんのコンサートホールでバッハやベートーヴェンといった故人の楽曲が演奏されることとなりました。
現代のクラシックコンサートの原型がこの時に出来上がったと言ってよいでしょう。
そうなると、作曲家は大変です。
故人の楽曲が後世にも残ると言うことは、自分の楽曲も後世に残る可能性もあるという喜びと同時に、手本としてきたバッハやベートーヴェンと同じクオリティを出さなければ、自分の音楽は消えてしまうということにもなります。
ベートーヴェンの楽曲のあとに、自分の楽曲が演奏されるようになりたいというプレッシャーは、制作のモチベーションを大きく上げる結果となりました。
このことにより、ロマン派時代にたくさんの後世に残る楽曲がつくられるようになりました。
世界の民族音楽が取り入れられるようになる
1900年代頃には、世界一周は80日でできるようになると言われました。スエズ運河やアメリカ横断鉄道など交通手段が爆発的に発展したのですね。
これにより世界がより近いものとなり、別の地域で発展した音楽を取り入れる事が可能となりました。
ベートーヴェンやモーツァルトももちろん民族音楽は取り入れたのですが、ロマン派ではさらに新しい地域の音楽を取り入れます。アジアやアフリカの音楽の要素も取り入れた楽曲も作られていくのですね。
ロマン派の名曲
名曲は色あせない
たくさんの作曲家が登場する華やかな時代は、もちろん名曲もたくさんあふれています。
すばらしい楽曲全てを紹介したいところですが、その中でもよりすばらしい楽曲を紹介したいと思います。
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ロマン派の作曲家
初期ロマン派
カール・マリア・フォン・ウェーバー Carl Maria von Weber 1786~1826 ドイツ
ジョアキーノ・ロッシーニ Gioachino Antonio Rossini 1792~1868 イタリア
フランツ・シューベルト Franz Schubert 1797~1828 オーストリア
中期ロマン派
フェリックス・メンデルスゾーン Jacob Ludwig Felix Mendelssohn-Bartholdy 1809~1847 ドイツ
フレデリック・ショパン Frédéric François Chopin 1810~1849 ポーランド
ロベルト・シューマン Robert Alexander Schumann 1810~1856 ドイツ
クララ・シューマン Clara Schumann 1819~1896 ドイツ
ニコロ・パガニーニ Niccolò Paganini1782~1840 イタリア
後期ロマン派
ヨハネス・ブラームス Johannes Brahms 1833~1897 ドイツ 新古典派
アントン・ブルックナー Anton Bruckner 1824~1896 オーストリア 新古典派
グスタフ・マーラー Gustav Mahler 1860~1911 オーストリア 新古典派
エクトル・ベルリオーズ Louis Hector Berlioz 1803~1869 フランス
フランツ・リスト Franz Liszt 1811~1886年 ハンガリー
リヒャルト・ワーグナー Richard Wagner 1813~1883 ドイツ
ジュゼッペ・ヴェルディ Giuseppe Verdi 1813~1901 イタリア
カミーユ・サン=サーンス Camille Saint-Saëns 1835~1921 フランス
スティーブン・フォスター Stephen Collins Foster 1826~1864 アメリカ
セザール・フランク César Franck 1822~1890 ベルギー
ジョルジュ・ビゼー Georges Bizet 1838~1875 フランス
国民楽派
アレクサンドル・ボロディン Aleksandr Profir’evich Borodin 1833~1887 ロシア 国民楽派
モデスト・ムソルグスキー Modest Petrovich Mussorgsky 1839~1881 ロシア 国民楽派
ピョートル・チャイコフスキー Pyotr Ilyich Tchaikovsky 1840~1893 ロシア
アントニン・ドヴォルザーク Antonín Dvořák 1841~1904 チェコ 国民楽派
ベドルジハ・スメタナ Bedřich Smetana 1824~1884年 チェコ 国民楽派
エドヴァルド・グリーグ Edvard Hagerup Grieg 1843~1907年 ノルウェー 国民楽派
ジャン・シベリウス Jean Sibelius 1865~1957年 フィンランド 国民楽派
新古典主義
エリック・サティ Erik Satie 1866~1925 フランス
オットリーノ・レスピーギ Ottorino Respighi 1879~1936 イタリア
新ロマン主義
ジャコモ・プッチーニ Giacomo Puccini 1858~1924 イタリア
セルゲイ・ラフマニノフ Sergei Vassilievich Rachmaninov 1873~1943 ロシア
アレクサンドル・スクリャービン Alexander Nikolayevich Scriabin 1872~1915 ロシア
アルノルト・シェーンベルク Arnold Schönberg (Schoenberg) 1874~1951 オーストリア
リヒャルト・シュトラウス Richard Strauss 1864~1949 ドイツ 交響詩
エドワード・エルガー Edward Elgar 1857~1934 イギリス
印象主義
クロード・ドビュッシー Achille Claude Debussy 1862~1918 フランス
モーリス・ラヴェル Maurice Ravel 1875~1937 フランス 印象派
グスターヴ・ホルスト Gustav Holst 1874~1934 イギリス
古典派の意義
モーツァルトバッハが物足りなく感じる人は、この時代にあまりにも音楽が発展しすぎて、それに耳が慣れ、バッハの音楽にもそれを求めるようになってしまっているからかもしれません。
しかし、これほど音楽が発展したには、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンら巨匠たちが確立した機能和声があったからこそ成立しているんですね。
ロマン派の時代によって、機能和声をより装飾的に発展させたり、逆に否定したりすることによってさらに音楽が幅広く彩られてきました。
なので、バロックや古典派の時代には、機能和声や音の重ね方、基本をしっかりと学べる事ができるのですね。
その他の主な、クラシックの時代を知ろう!
クラシック全体を見ることができるようになると、クラシック音楽の理解は10倍にも20倍にもなります。もし良かったら、合わせて他の時代も知ってみてくださいね!