ボロディンの名曲、歌劇「イーゴリ公」より「韃靼人(だったん人)の踊り」
歌劇「イーゴリ」公は、ロシアとダッタン人との攻防をめぐる中での人間模様を描いた作品です。いわゆる国盗り戦争ですね。
この曲ができた頃は、大航海時代も終え、世界は大変小さくなっている時代でした。地球の裏側の国とも貿易ができるようになったんですね!それと同時に、西洋音楽は世界の音楽に触れる事になりました。
西洋音楽は民族音楽に出会ったのですね。
個性豊かなロマン派の音楽家たちは、世界の民族音楽の要素をこぞって自分の音楽で表現しようとしました。
ボロディンもその1人です。
ここで重要なポイントは、韃靼人自身がこの音楽を表現したのではなく、ロシア側の人間が「韃靼人」を表現したことです。
西洋音楽的で生まれ育ったオーケストラ的な音楽的手法で、韃靼人という民族を表現しているのです。
もし韃靼人側が音楽を作れば、恐らくオーケストラではなく、韃靼人特有の楽器や打楽器中心の音楽になっていたことでしょう。
楽曲分析
さて、分析の方に入って行きます。
この「韃靼人の踊り」の中で、もっとも印象的なメロディの「娘達の踊り」に焦点を当てていきます。
まず譜面を見てみましょう。
韃靼人の踊りのスケール
①「韃靼人の踊り」内の娘達の踊りのシーン
このメロディ、どんなスケールでできているのでしょうか?
普通に見ると、通常のAメジャースケールやFマイナースケールのようにも見えます。
しかし、聴いてみるとどこなくエキゾチックなフレーズではないでしょうか?
メロディをなぞると、AやF#がルート音でないことがわかります。
では、ルート音を探すと、、、なんと、、、
Bですね!
Bがルート音です。
となると、この曲はBドリアンスケールでできています。
ボロディンはこの#3つのAメジャーの譜面に、Bがルート音となるフレーズを書きました。
ということは、意図的にドリアンを使おうとしたことに他なりません。
チャーチモードを特殊な楽曲制作に使う
ここで重要なポイントが1つあります!
このドリアンスケールですが、もともとはグレゴリオ聖歌の時代に生まれたチャーチ旋法と呼ばれるスケールのうちの一つです。
もちろん韃靼人の土地で生まれたスケールでもなく、エキゾチック感を出すために生まれたスケールでもありません。
ボロディンはクラシックを勉強して、何と130年も前にドリアンスケールがエキゾチックを表現できると発見したのですね!
このように、西洋音楽で生まれた技術を使って民族音楽を表現したところに大きな価値があります。
ドリアンスケールは、今でも少しエキゾチックなシーンの音楽で多用されています。ファイナルファンタジー等でも良く使われていますね。
とても使い勝手が良いスケールのうちの一つです。
また、このスケールの発見だけでなく、楽器やリズムの使い方にも新しい手法が見られます。
「全員の踊り」のシーンでは、拍頭にティンパニを多用して土の匂いのするような民族感を表現しています。こんなティンパニの使い方は、古典派時代にしていたらとんでもなく批判を浴びていたでしょうね。「楽器を壊す楽曲が現れる」とか言われそうです。当時は相当斬新な音に聴こえたはずです。
また、「少年たちの踊り」では、とても早い3連符をつかって狩りのシーンを表現しています。この3連譜、古典派の時代にはサロンで踊ったりすることができる曲を求められたため、あまりテンポの早い曲はありませんでした。
このシーンでは、踊るどころか狩りで走ることをイメージしているのでものすごく早いです。
この3連譜にのってのピチカートが、弓を使って狩りをしているイメージをより引き立たせます。弓を射る音とピチカートをだぶらさているんですね。
この楽曲を、自分の音楽作りに活かすには?
チャーチモードを使った楽曲作りは苦手だと言う人は多いです。一度チャレンジしてみたけれども、結局ダメだったと言う人がほとんどです。
長調と短調のスケールが全盛期の現代においては、なかなかチャーチモードは使いこなせませんね。
もし、どうしてもうまくいかない時、チャートモードをうまく使えるようになる方法があります。
チャーチモードを使った楽曲で、かっこいいと感じる作品を探してみてください。もし、「だったん人の踊り」がかっこいいと思ったらもちろんこの楽曲でOKです。
その楽曲の譜面を見つけて、自分がいつも作曲をしてる楽器で引いてみてください。
そうすると、チャーチモードの特徴音が出てきた時に、「ハッ!」とすると思います。
だったん人の踊りだったら、「G#」音ですね。
自分のいつも使ってる楽器から、普段聞きなれない響き聞こえたと思います。
もし、聞きなれない響きがカッコいいと思えたら、きっとそのかっこいい音は自分の楽曲に活かせることができます!
カッコいいチャーチモードをどう使うか、コツみたいなものがつかめますよね。
そうすることによって、チャーチモードが自分の血となり肉となってゆきます。
まとめ
このように、ボロディンは西洋音楽の歴史で生まれた、スケールや楽器や演奏方法を使って民族音楽を表現しました。
もし、あなたがどこかの民族をイメージした曲を作れといわれたら、まず思いつくのがその土地で生まれた楽器を使うことをイメージするのではないでしょうか?
でも、安易にそれらを使うことはオススメできません。あくまでも、ボロディンが表現したようなオーケストラやクラシックの技術を使った上で、さらにその民族特有の楽器を使うときっと完成度は高くなるはずです!