「夢程」夢を叶えるには何年かかる?10代から90代まで、作曲家が描く、夢への道のり

あなたは、夢に出会えていますか? もし絶対に叶えたい夢があるのなら、それだけで本当に幸せなことだと私は思います。

ただ、本気で追いかけるほど大きな夢なら、1年や2年ではとても届かないこととが多いです。

10年、いや20年かけても難しいかもしれず、本気で叶えようとすれば一生かかる。

それが夢というものなんです。

夢の道のり「夢程 -yumenori-」

夢を長い長い道のりにたとえると、こんな地図になるのではないでしょうか。

私はこれを、「道程(みちのり)」になぞらえて「夢程(ゆめのり)」と呼んでいます。

  • 夢に出会うのが10代
  • 夢を追いかけるのが20代
  • 夢に迷うのが30代
  • 夢と共に歩くのが40代
  • 夢で得たモノを伝えていくのが50代
  • 夢に本当に感謝できるのが60代
  • 夢に惜しまれるのが70代~90代

 

2500年前にも「人生の地図」を描いた人がいた

人生を年代で区切って考えた人は、はるか昔にもいました。

中国の思想家・孔子の言葉をまとめた『論語』の、有名な一節です。

吾十有五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順う。七十にして心の欲する所に従えども矩を踰えず。

15歳で学問を志し、30歳で自分の足で立ち、40歳で迷わなくなった、

という意味です。

私の夢程でも、迷いを抜けて夢と並んで歩き始めるのは40代です。

二千五百年たっても、人間の迷いどきはあまり変わらないのかもしれませんね。

夢に出会うのが10代

10代のころは、これから待っている現実のことなんて考えずに、ひたすら好きなことを追いかけていましたよね。

そのなかで、ばくぜんとイメージしていた「将来」と、迫ってくる「現実」を結びつけてくれるのが夢なんです。

どの大学や専門学校へ進むかを考えることも、私たちに初めて現実を教えてくれます。

夢はよく「現実逃避」だと言われますが、本来はまったく逆です。

夢こそが、自分の人生と現実をいちばん最初につなぎ合わせてくれる大切な感情なのだと、私は思っています。

夢を追いかけるのが20代

20代は、初めて本気で夢と向き合う年代です。

思い描いていた華やかな世界と、現実の厳しさとのギャップ。

それに耐えられる人だけが生き残れるので、夢から離れていく人がいちばん多いのもこの時期なんですね。

一流のバイオリニストも、20歳ではまだ途中

それでも、20代がどれほど大切かは研究からも見えてきます。

心理学者のアンダース・エリクソンらは1993年、ドイツの音楽大学でバイオリンを学ぶ学生を調べました。

すると、とくに優秀なグループは、20歳までに平均およそ1万時間もの「意図的な練習」を積んでいたんです。

意図的な練習とは、ただ繰り返すのではなく、弱点を見つけ、能力を伸ばすために目的を持って行う集中した練習のことです。

しかもエリクソン自身、その学生たちも20歳の時点では達人にはほど遠かったと語っています。

1万時間かけてもまだ途中なのですから、夢が1年や2年で叶わないのは当たり前なんですね。

若さと体力があり、新しいことにも思い切って飛び込める20代は、捨てるくらいのつもりで必死に学ぶ時期なのです。

「男は30歳から」という言葉は、20代にがんばれば思い描いた30代が待っているよという、最高のエールだと私は受け取っています。

私が24歳で選んだ道

私自身、社会人をやめて、24歳で音楽の学校へ入り直しました。

お金も実績もまったくなく、本当に音楽でやっていけるのか、不安でたまらない毎日でした。

初めて音楽の仕事をもらえたのは2001年ごろ、専門学校の2年生のときです。

デモテープを送っていた京都の映像制作会社から、地方テレビのCM音楽を任されました。

夢と現実が初めて一本の線でつながったあの経験は、今でも私の仕事観の源になっています。

夢に迷うのが30代

30代まで夢を追いかけられている人は、きっとある程度は夢に近づいている人です。

ところが、夢はそう立て続けに成果を出させてはくれません。

夢でいちばん難しいのは「成果を出す」ことではなく、「成果を出し続ける」ことなんです。

しかも、20代ならすんなりあきらめられた夢も、少し近づいた30代ではなかなか手放せません。

先に進むか、元の道に戻るか、多くの人が、この時期に一度は大きく悩むことになるのでしょう。

人は長い目で見ると「やらなかったこと」を後悔する

この迷いを考えるうえで、知っておいてほしい研究があります。

心理学者のトーマス・ギロビッチとヴィクトリア・メドヴェックが1995年に発表した論文です。

それによると、人は短い期間では「やってしまったこと」を後悔するのに、長い目で見ると「やらなかったこと」のほうを強く後悔するのだそうです。

とはいえ、ただ突き進めと言いたいわけではありません。

30代のあなたは、人生で絶対に失ってはいけない人とも、きっともう出会っているはずです。

その人のこともしっかり考えたうえで選んだ道なら、どちらに進んでも、それはあなたの夢程の大切な一部になります。

夢と共に歩くのが40代

40代まで夢を追いかけてこられた人は、ほぼ成果を出し続けてきた人でしょう。

技術や人脈も最大限に発揮できているはずなのに、ここまで来た人は決まって「まだまだ満足していない」と思っているものです。

そういうストイックさがなければ、生き残れない世界なんですね。

このストイックさの極みが、江戸時代の絵師・葛飾北斎です。

北斎は75歳ごろに出した『富嶽百景』のあとがきに、「70歳より前に描いたものは取るに足らない」と書きました。

続けて「73歳でようやく鳥や獣、虫や魚の骨格、草木の成り立ちが少しわかってきた。

100歳で神業の域に、110歳になれば一点一画が生きているように描けるだろう」と記しています。

あの『神奈川沖浪裏』を描いた人の言葉だと思うと、思わず背筋が伸びますよね。

夢で得たモノを伝えていくのが50代

ここまで来れば、あなたの技術は、若い人には簡単には追いつけないものになっているはずです。

夢の続きを追いながら、その技術を若い人に伝えて、自分が選んだ夢そのものを発展させることも視野に入れてみてください。

心理学者エリク・エリクソンは、中年期の大切なテーマを「世代性」と呼びました。

世代性とは、次の世代を育てたり、自分の知識や技術、経験を社会に残したりして、未来へ何かを手渡していこうとすることです。

反対に、自分のことにしか関心が向かなくなると「停滞」に陥ると考えました。

スポーツで言えば、選手兼任コーチのようなイメージでしょうか。

私も今、専門学校で作曲を教えていますが、体感では生徒の9割ほどが作曲を「難しい」と感じています。

その壁を一緒に越えていくことも、私にとっては夢の続きなんです。

夢に本当に感謝できるのが60代

ふと気がつくと、人生の終わりとともに夢の終わりも近づいていることに気づきます。

学生時代からの仲間も少しずついなくなり、寂しさを感じ始めるのもこの年代です。

けれど、ふり返ってみれば、あなたが歩いてきた道の大半は夢のために費やした時間だったはずです。

エリクソンは、老年期に迎える人生最後の発達段階のテーマを「統合」と呼び、過去をふり返って自分の人生を受け入れることを重視しました。

大好きなことに没頭できた人生に、そして夢に出会えたことに、心から感謝できると思います。

夢に惜しまれるのが70代~90代

多くの人が、この年代で人生を終えることになります。

そしてここまで夢を突き詰めた人の夢は、夢というカテゴリーをはるかに超えて、今度は夢のほうがあなたの存在を惜しむようになるんです。

79歳で最後のオペラを書いたヴェルディ

同じ作曲家として忘れられないのが、イタリアのオペラ作曲家ヴェルディです。

ヴェルディは79歳で、最後のオペラとなる『ファルスタッフ』を発表しました。

1893年、ミラノ・スカラ座での初演では、拍手が30分も鳴りやまなかったと伝えられています。

79歳であれほど若々しい喜劇を書き上げたエネルギーには、ただただ脱帽するしかありません。

「あと5年あれば」と言い残した北斎

40代のところで紹介した北斎は、数え年90歳でこの世を去りました。

臨終の床で「天があと5年の命をくれたなら、本物の絵描きになれたのに」と言い残したと伝えられています。

90歳まで描き続けてもなお、北斎は夢を惜しみ、夢のほうも北斎を惜しんだのでしょう。

だからこそ170年以上たった今も、私たちはその名前を忘れずにいるのだと思います。

あなたと共に夢を追った人、応援してきた人、あなたが夢を伝えてきた人。

そのすべての人が、あなたがいなくなることを惜しむはずです。

あなたは今、夢程のどこにいますか?

こうして並べてみると、夢とは目的地ではなく、一生をかけて歩く道そのものなのだと感じます。

いつか「本当に長い間ありがとう、お疲れさまでした」と、すべての人から祝福される人生でありたいですね。

あなたは今、夢程のどのあたりを歩いていますか?