劇伴を制作するにあたって ~劇伴の作り方

劇伴とかいて、皆さんは何と読みますか?

「げきはん」とか「げきばん」とか統一されていないと思います。

正式な答えはないようですが、一般的には「げきばん」が正解だとされています。

なのでここでの文章も「げきばん」と読んでくださいね。

劇伴の役割とは?

劇伴とは何でしょうか?

おそらく皆さんも想像しているとおり、映画やドラマなどの劇中にでてくる音楽のことです。

では、その劇伴をつくるとはどういうことになるでしょうか?

劇伴を作曲するのですが、作曲をすることがメインではありません。

作曲という手法を使って、よりよい映像作品になるように演出すること。

です。

劇伴をつくるということは、作曲以前に演出を考えるということなんですね。

そのシーンがどういった意味があるのか、その意味をどうやったら作曲という手法を使ってよりよい作品にすることができるのかと考えるということです。

「音楽を目立たせたい」と考えることも悪くはないのですが、音楽だけが無駄に目立った作品は、映像作品としては音楽が邪魔になって全然面白くないです。

かといって、自分を押し殺しすぎて映像作品のためだけにつくった印象の薄い音楽はもっとつまらないです。

ちょうどいいサジ加減が重要ですね笑

劇伴でどんな演出ができるか

劇伴で演出できることは、おおまかに考えると次の2つです。

・シーンを強調する
・シーンを補足する

それぞれについて詳しく説明して行きますね。

シーンを強調する

”強調”はわかりやすいと思います。

たとえば、映画のエンディングの感動的なシーンで泣けるような曲をつくることですね。

また、楽しい時には明るく盛り上がる曲などで、主人公の気持ちやシーンをより印象付けることです。

シーンを強調するということは、ダイレクトに観客の心に入ってくるので名曲や印象に残る曲が生まれやすいです。

シーンを補足する

こちらが少し難しい演出になります。

例えば、主人公は笑ってはいるけれども、実はその主人公は悪事を考えているシーンがあったとします。

ここでは主人公の笑顔にあわせて楽しい曲をつくってはいけませんね。

ちょっと重い、悪巧みを暗示する音楽の方が合うと思います。

映像だけではわからない「本当は裏の顔がある」と観客に教えてあげなくてはなりません。

また別の例で、舞台設定が中世ヨーロッパの映画があったとしましょう。

当時のヨーロッパで使われていたハーディーがーディーやリュートなどを楽曲内で使うことによって、その世界にある文化や生活のイメージを音によって表現することができます。

沖縄だったら沖縄・琉球音階をつかったり、三線を使ったりして沖縄らしさを補足してあげる訳です。

ですが、もし映像が沖縄感満載であったら、補足ではなくて「強調」と捉えても良いかもしれませんね。

このように、映像を演出することによって、音楽は観客の心を揺り動かし、映像作品と観客をつなぐ感情の架け橋となることができます。

より映像作品のすばらしさを伝えることができるのですね。

劇版にはどんな技術があるのか?

劇版には、その長い歴史の中で生まれたたくさんの技術があります。

2つの著名な演出方法があるので、紹介して行きますね。

ライトモチーフ

ライトモチーフとは、「ある登場人物に特定の旋律や音を与えて、物語の展開や特別な意味あいを暗示する」方法です。

ちょっと難しいですね。

わかりやすく言うと、ある登場人物が出てきた時に、必ず同じメロディの曲が鳴るということです。

最も有名なのは、スターウォーズでダースベイダーが登場したらあの有名な「ダーダーダーダーダダーン」と鳴るあの曲ですね。

きっと皆さんの頭の中にも同じ曲が流れたはずです。

このようにある登場人物とあるメロディーをセットにして、その人物を音でより印象付ける手法です。

この他にも有名な楽曲はたくさんあります。

下のキーワードを見ると、頭の中で全員同じ曲が流れたはずです。

・ジョーズが登場したシーン
・バイキンマンが悪巧みをしたり、アンパンマンを攻撃するシーン

このように、登場人物やシーンを強烈に演出する方法がライトモチーフといわれる手法です。

もちろん、曲だけではなくて効果音のようにもっと短かったり音色で演出されることもよくあります。

1871年、ドイツのフリートリヒ・ヴィルヘルム・イェーンスが最初にこの手法を使ったとされます。

なんと150年ほど前ですね!

アンダースコア

アンダースコアとは、セリフを生かすための音楽です。

メロディやリズムが目立つ音楽をセリフと一緒に流すと、セリフを邪魔して聞き取りづらくなってしまいますよね。

それを避けるために、セリフが生きるよう、共存できるようにあえて目立たない楽曲を当てはめることです。

作曲家からしたらとても嫌な作業ですね笑

この経緯から、セリフを活かしながら場面の説明や補足をする楽曲をつくる手法が生まれ、今日では当然の技術になっています。

現代の劇伴といわれるものは多数この手法ですよね。

アンダースコアが誕生した歴史的な背景

アンダースコア誕生の歴史は、映画発展の歴史と強くシンクロしています。

1900年の少し前ごろ、初めて映画というものができた時は、音楽はもちろんのこと、音そのものがついていませんでした。

いわゆるサイレント映画ですね。

男性の顔のアップが映り口がパクパク動いた後、黒画面で「あいしてる」と表示され、また女性の顔のアップが映りまた口がパクパク、そしてまた黒画面になって「わたしもよ」と表示されるあの形式の映画ですね。

もちろん映画にシンクロした音はありません。

この頃は映写機がうるさかったので、映画を見ながら気になってしまうと苦情が来たことから、この騒音をごまかすために映画にあわせて隣でピアノをアドリブで弾いて行くという手法がとられたのです。

なんとこれが、映画音楽の劇伴の最初なんですね。

これで多少映写機のうるささを軽減できたものの、映画をつくるがわからしたらシーンを深く理解することも無く音楽がついたのでは、映画監督はたまったものではありません。

なのでこの問題を解決するために、シーンに合わせてあらかじめつくった音楽を、映画配給会社が映画を渡す際に音楽の楽譜も一緒に渡すことになりました。

ようやくここで映画と音楽が一致するのですね。

そして、映画界に大きな発展が起こります。

映画に音声がつくようになりました。「トーキー映画」といわれるものですね。

この頃から映画のクオリティは上がり人気も出て、市民権を一気に得たようです。

当時つくられたミュージカル映画は軒並みヒットしたようですね。ミュージカル映画がたくさんつくられた背景は、やはり劇というとオペラというところから発展したのだと思います。

いわゆるセリフと音楽が同じタイプの映画ですね。

そして時代は進み、ミュージカル的なものより、現代風の演劇形式の映画がつくられて行きます。

いわゆる台詞は歌うのではなくて、日常に話すような形式ですね。

そうなると大問題が起きます。

普通に台詞をしゃべっている時に、ミュージカルのようなメロディが立った音楽を流すと台詞をかなり邪魔してしまって物語が成立しなくなってしまいます。

かといって音楽はつけたい、、、

と悩んだ末に、音楽の完成トラックからセリフを邪魔するメインメロディを抜いて流したのです。

とすると、、、映画に合うわけです。

これでもまだ邪魔するようなら、リズムセクションも抜いてしまえ!!

とすると、、、さらに合うわけです。

というように、音楽の目立つ部分をどんどん抜いていったら現代風の映画にはピッタリハマったのです。

本来の音楽制作の現場なら、作曲家泣かせのありえない発想ですが、映画を演出するというために生まれた技術ですね。

この経緯から、セリフを邪魔しない作曲方法が生まれました。

そしてこの手法は、現代でもどんどん発展していっています。

派手な戦闘シーンでも、戦闘が始まったところは壮大でブラス系で壮大なメロディの曲が流れるのですが、途中で会話シーンが出てくると突然メロディが無くなりストリングスセクションの白玉中心になって、会話が終わるとまたブラスが壮大に歌い上げていく、、、という演出は見たことがあると思います。

これはまさに、アンダースコアという技術の応用ですね。

劇伴のテクニック

ここまで説明しました劇伴の「強調」と「補足」は、映像にとても”合う”演出です。

ですが、この演出を広く考え、あえて違和感を出すことも演出と言えます。

違和感を出すことによって、次の演出につなぐ布石にすることもできます。

たとえば、とても悲しいシーンがあっても、次のシーンでより悲しいくどん底に落ちるシーンがあったとします。

そして、そのどん底に落ちるシーンが映画の中でとても重要であったとします。

その場合、一つ前の悲しいシーンでは、あえて少し明るい楽曲を当てはめて、そのあとのどん底で、とてもダークで重々しい楽曲をかけると、よりどん底を強調できます。

次の演出のために、あるシーンではあえて”合わない”楽曲を選ぶとより効果は高くなります。

みなさんも、映画を見ていて一度は「あれ!?なんでこんな楽曲なの!?」って思ったことはありませんか?

それは、

違和感があるところには必ず意図的な演出がある。

ということなんです。

プロの音楽家や効果音制作をしている人は、映像に合うような音をつけることなんてたやすいことです。

その方々が「あえて合わない演出をしている」時、何か特別な演出があるはずです。

その意味を考えるとより劇伴が楽しくなりますよ。

もしあなたが、その演出技法に気づくことが出来れば、その技法は、あなたの演出テクニックの引き出しにすることができます。

映像作品をもっと楽しむために、皆さんのたくさんの「気づき」にこのコラムがお役に立てることが出来れば幸いです。

まとめ

このようなところが、劇伴の意味するところになります。

楽曲の役割を知ったうえで映画を見ると、またそれぞれのシーンが違った顔を見せてくれるので、より映画が楽しくなったりもしますよ。

本来は、映画のあるワンシーンに3種類くらい音楽つけて、より詳しく説明したかったのですが、、、著作権という大人の事情がクリアできません><

いずれ何か別の方法で解説していきますので、楽しみにしててくださいね。

コメント

  1. 藤原 昇 フジワラ ノボル より:

    KBCTV 4/20 11:15 から「劇伴音楽の裏話」を拝見しました。84歳の私には未知の世界で、やっと週末のゆっくりタイムに入るところでさわやかな気分を頂き、感謝しています。