プロ直伝 打ち込みテク① 「オーケストラのアタック感を表現する」

今回は、プロの現場でバリバリ使われている、弦楽器や管楽器などを生っぽくする打ち込み技術を紹介したいと思います。

弦楽器や管楽器の打ち込みで、もっとも重要になってくるのは音の入りの部分です。

つまり、アタック部分です。

アタックが弱い時は、音源の中で「sustain」などといった名称の音を使いますが、ちょっと強い時は「f(フォルテ)」の「sustain」が用意されているものもあります。

もう少しアタックを強くしたいときは「marcato(マルカート)」を使っている人も多いでしょう。

「でも、、、本当に欲しいアタックの強さはその中間くらいで、、、」

「もっと強いアタックで、音を伸ばしたいのに」

なんて思ったことありませんか?

実際、生のオーケストラでは、同じアタックの音が続くなんてまずありえません。

生演奏は人間なので、音符が10音あれば、全ての音でほんのわずかながらでもアタックの強さが違っていいます。

100音あれば、100音とも違うでしょう。

なのであなたは、バイオリンなら打ち込み音源のアタックの強さは5段階、、、いや、できれば10段階以上欲しいのが本音だと思います。

でも、、、ストリングス音源のアタックの強さの種類って、大体が3~4種くらいですよね。

奏法が違うものが入っているだけで、「サステイン(伸ばし)」「マルカート(ハッキリしたアタック)」「スタッカート(短い)」くらいです。

しかし!

その数個の奏法だけを使って、アタックの強さを10段階どころか、何百種類にまで増やすことができるんです!

もちろん打ち込みで、そしてどんな音源でも実はそれが可能です!

今回は、その段階をつけたアタック音の作り方について解説したいと思います。

段階的なアタックのつけ方

実は、アタックの強さの段階のつけ方って、割と単純なことなんです。

2つ以上の音を混ぜ、エクスプレッションで音の大きさの比率を変化させることによって表現します。

例えば、「サステイン(伸ばし)」と「スタッカート(短い)」のトラックをそれぞれ用意して、混ぜ合わせるといった作業をしていきます。

弱いアタック

まず、弱いアタック間の表現方法から行きたいと思います。

これは「サステイン(伸ばし)」のみで表現できます。

下図の赤丸部分ように、エクスプレッションなどを使ってアタックを遅くしてあげましょう。

このカーブの書き方によって、アタックの強さを微妙に何種類にも変化させることができます。

この3つの違いはわかりましたか?

かなり微妙な差ですが、この違いが生っぽい表現の肝となってきます。

現場で活躍するプロからしたら、全く違うアタックに聴こていますよ。

普通のアタック

では次に、一般的なアタックを表現してみましょう。

「サステイン(伸ばし)」と、「スタッカート(短い)」もしくは「スピッカート(短い跳ね)」を組み合わせて作ります。

下記の図のように、「サステイン」と「スタッカート」の音量を、エクスプレッションで比率を変化させてさまざまなアタック音を作っていきます。

この図ではスタッカートがやや強めの設定になっていますね!

この方法で作ったアタックは、このような音になります。

2種類を聞き分けてくださいね。

このように、微妙なアタックの強さの違いを簡単に表現することができます

もちろん、エクスプレッションを少し変えて、この中間くらいの、さらにもっと微妙なニュアンスも表現することができます

強いアタック

次は、強めのアタックの表現です。

この音は、どんな音源を捜してもプリセットでは用意されていません。もし、近いものがあったとしても、ただの短く切れるスタッカート系だったり、アタックの強さを変化させることができないものです。

そして、より強いアタックを表現するために、組み合わせも「サステイン」と「スピッカート(短い跳ね)」の2つに変えると効果的です。

エクスプレッションでスピッカートの比率を高めにして、ベロシティも上げてあげましょう。

かなり強めのアタックが表現できましたね!

これだけの強いアタックがあれば、クラシック音楽の表現もかなり楽になりますね。

とても強いアタック

最後に、とても強いアタックを表現してみます。

映画音楽では、戦闘シーンや恐怖のシーンなどでよく使われています。

スピッカートのエクスプレッションはかなり高く、ベロシティも最大近くまで上げておきましょう。

この方法がないと、映画のような激しいシーンでの音楽は、絶対に表現できないと断言できます。

今回は、とりあえず10段階で紹介してみましたが、この手法を使えばもっとそれぞれの中間的な微妙な表現もできるので、いろんな音の組み合わせによって何百、何千種類ものアタックを表現することが可能となります。

今回使った私の手持ちの音源だけでなく、どの音源でも使える手法なので、あなたの持っている音源でもぜひ試してみてくださいね。

実際の楽曲を使って、効果を検証

では、この手法を使うとどのくらい効果があるのかを検証したいと思います。

今回は、下記の譜面を使って比較してみたいと思います。

図① 譜面

図② ここにアタックをつけたい!

この譜面で、私がオーケストラに演奏を指示するなら、赤が強いアタック、青がアタックを弱めで演奏すると思います。

印がついていないところは標準的な強さをイメージしています。

通常

では最初に「サステイン」のみで打ち込んだデータを聞いてもらいましょう。

普通のやさしい音楽のイメージですね。

音源の特徴で、高温はややアタックが強くなる傾向がありますが、ベロシティは一定の設定です。

やりがちな間違い、全てをマルカートのみに変更

この曲をもっと躍動感があるものにしたい場合、すべてを「マルカート」に変更してしまう人を良く見受けます。

すべて「マルカート」に変更してしまうとこんな演奏になります。

全てが強いアタックになって、ちょっと下手っぽい演奏になってしまいましたね。

段階的なアタックに変更

では、図②の指示に従って、susutainとspiccatoの組み合わせによって表現するとこのようになります。

よく聞くと、同じアタック感の音はないですよね。

今回はサステインとスピッカートのみの組み合わせで表現しましたが、サステインとスピッカートに加え、マルカートやスタッカートも隠し味に加えていくと、もっと生っぽい表現が可能となってきます。

では、midiで複数のアーティキュレーションを混ぜることができるの?
DAW上での、オススメなトラックの作り方は?

この打ち込み方法は、DAW側でどのように管理すればやりやすいのかをまとめたいと思います。

今回のように、1つの楽器で複数の奏法を組み合わせて打ち込む場合、それぞれの奏法ごとにトラックを用意しなければなりません。

そうでないと、各奏法ごとにエクスプレッションなどのコントロールチェンジ(CC)を使い分けることができないからです。

例えば「viollin 1st」なら、「サステイン」と「スタッカート」と「マルカート」と「スピッカート」の4つを混ぜ合わせたい場合、合計4つのトラックを作るということになります。

まず下記の画像を見てください。

「Viollin 1st」と「Viollin 2nd」はどちらも4トラックずつ作っています。

このようにすると、エクスプレッションを操作することによって各奏法の音量をコントロールができ、さまざまなアタックの種類を作り出すことができます。

生オーケストラを打ち込むときのコツ

では最後に、生っぽいオーケストラの打ち込みをするコツをまとめたいと思います。

生のオーケストラの音を聴く

よく「どうやったら生っぽくオーケストラの打ち込みができますか?」と聞いてくる生徒は、毎年何人もいます。

ですが、そういう人に限って一度も生オーケストラのコンサートに行ったことがなかったり、実際にバイオリンに触った経験すら無い人がほとんどなんです。

まず、生っぽく打ち込みで表現するには、生の音をたくさん聴くことが第一歩です。

上手い野球選手を見たことが無いのに、野球がプロ並みに上手くなることはありませんよね。

日本では、都心部なら毎週のようにどこかでオーケストラコンサートが行われています。

チケットぴあや、大手コンサートホールのHPで探せば、たくさんの情報が掲載されているのでこまめにチェックしておきましょう。

たまに世界の名だたるオーケストラがやってくることもあります。

将来の自分への投資のつもりで、できるだけメジャーなオーケストラを見に行くことをおすすめします。

素晴らしい音楽に触れることは、あなたの財産となっていきますよ。

あなたが指揮者となる

楽曲のデータを入力している時は、あなたが唯一の指揮者です。

オーケストラを指揮するような感覚でデータを作っていくとまとまりが出てきます。

例えば、弦楽器センクションをある小節から盛り上げたい時は、violin 1&2・viola・cello・CBのパートはエクスプレッションのカーブのタイミングも合わせなければ、一体感は生まれません。

また、特に低音系の楽器に多いのですが、celloのスタッカートなどは、音源によっては小節の区切りピッタリに置くと遅れて聴こえるものがあります。

クリックなどと合わせて耳で聞いてみて、遅れていると思ったらmidiノートを少し前に出してあげないといけないかもしれません。

あなたが、指揮者をイメージをして、どこか気になるところ、もしくは気持ちよくないところがあればしっかり発見してデータを修正していくと、より一体感のある打ち込みができるようになります。

私は実際に指揮棒を振りながらmidiを打ち込むこともあります笑

また、演奏者の気持ちになって、バイオリンを持った姿でmidiを打ち込むときもあります笑

旗からみたらタタオカに見えるかも知れませんが、これが意外に効果があるんです。

いろんな角度から自分のデータを眺めてみましょう!

まとめ

いかがでしたでしょうか。

このように、1つの音源でもいろんな組み合わせを考えることによって、無限の可能性を引き出すことができます。

さっそくあなたもこの方法を使ってみてくださいね。

劇的に打ち込みの完成度が上がると思いますし、今までできないと思っていたことがすんなりできることになると思います。

最後に、今回使った音源を紹介したいと思います。

現在私がメインで使っているおすすめ音源です。